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カムイデンコウギ

カムイ伝講義

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【江戸時代初めの架空の村を舞台に忍、非人、穢多、農民、下級武士、漁民、マタギ、サンカらの生活を描く『カムイ伝』を題材に江戸と今を見る。】

『カムイ伝』は、プロレタリア画家を父に持ち1932年生まれの白土三平氏による、現時点で2部構成、想定としては3部構成の長編漫画です。『外伝』も別にあります。江戸時代初期を時代設定とし、非人や忍という歴史の表舞台には登場しにくい人々について描かれています。私は『カムイ伝』を読破していませんが、江戸の実情を知るためによい本かもしれないと考え、『カムイ伝』を題材とした講義から生まれたこの本を読んでみました。

『カムイ伝』には、非人と穢多を敢えて混同して描かれているという問題があるようです。また、当初の想定は東北地方の村である一方で、途中からは今の大阪府南部あたりの村が想定されていて、地名や登場する人びとが実際とは合わないようです。


■「カムイ伝の向こうに広がる江戸時代から「いま」を読む」■
こう記されているように、この本は、カムイ伝を題材に、実在する資料から江戸時代の人びと、特に社会の底辺や周辺に目を向けることで、江戸の実態を探り、さらに現代社会と関連付けて解釈する内容となっています。

江戸時代といえば否定的なイメージを持ちがちです。中学校社会 歴史/江戸時代を見ると、枝番付きで解説されている項目は、「江戸幕府」「鎖国」「身分制度」「産業」「天明のききん」「江戸時代の文化」となっており、今の世でいえば独裁国家を思わせます。

一方、本書を読むと印象はまったく違っています。例えば、農民ついて次のように記述されています。
「江戸時代の農民は、抑圧されるばかりで細々と貧しく生きていた、というわけではない。『カムイ伝』はそれを教えてくれる。農民はあらゆる職人的能力を身につけ、賢く、論理的で、強靭で、柔軟性に富み、何より、人と関わりながら目的を果たしてゆくことに長けている。一揆はもちろんのことだが、江戸時代の歴史を見ていて驚くのは、その産業に示した農民の能力である。(69ページ)」

「寄合(よりあい)と呼ばれる村の議会は、全員一致の結論に達するまで何日でも話し合ったことが、歴史や民俗学の資料でわかっている。多数決という方法は村にとっては、どうしても全員一致の意見に達することのできないときに取られた「いたしかたない方法」であって、決してほめられる事態ではないのである。(70ページ)」

都市生活者である武士たちよりも、農山漁村に暮らす者たちのほうが、柔軟性や強靭さを備えている(狩猟採集者たちはさらに優れている)という図式があるのではないでしょうか。また、多数決という方法があくまでも、一方的な押しつけでしかないという本質がここに見えます。

本書には、明治以降の価値観や制度を否定する記述が多数登場します。
「(現代社会では)基準が一つしかないので、落ちこぼれるとその人生は失敗と見なされる傾向がある。それに比較した場合、江戸時代は、機会の平等は保証されていないが、気が遠くなるほど多様な小社会が存在していて、一つの社会での失敗は完全な失敗とは言えない、という側面があった。(60ページ)」

「一五四九年にザビエルが王直の倭寇船で日本に渡ってきたのも、盛んに銀山開発をしている日本の富を知っての上だった。この後、イエズス会はキリシタン大名を作り出すことによってその領地をイエズス会へ寄進させる。まさに富のまわりには神さえも集まるのだった。日本のキリシタン弾圧は、そこまで読みこまなければならない。(232ページ)」

「当時の医療に関する文献を読んでいくと、地方によってその医者の数にもばらつきがあることがわかる。しかし現代のように無医村ということはほとんどなく、たいていどこにも医者の役割を果たし得る人物が存在していた。彼らの用いた医療は、民間療法として現代にいくつか残っている。
いまは、資格が必要とされるために、以前とまた違った問題が生まれてしまったように思われる。このことは医者に限らず、どの分野に関しても当てはまることだろう。医療に関して言えば、何よりもまず、安易に他人へ治療が施せなくなった。その分野に関することは、資格を持つ人でなければやってはならないとされるのが、現代の日本社会である。しかし、この制度は人々の考えにも大きく作用している。それは、とかく何であれ制度に依存しなければ生きられない体質を生んでしまうということだ。つまり、自分の生活までもが社会のシステムに組み込まれ、それは貨幣を支払うことで維持される、ということである。これが小さなコミュニティの中ならまだいいが、国家レベルとなると、微妙な差異が切り捨てられてしまう。(280、281ページ)」

「「武士道」は明治以降、日本人にも世界にも知られるようになった。武士道が日本人の倫理観を高めていたという、新渡戸稲造の主張は、外国人向けの日本人のイメージ刷新に役立つことはあっても、実態は違う。『カムイ伝』も武士道を礼賛などしていない。(322ページ)」

これらの記述は、現代社会のあり方には「良い面もあれば悪い面」もあるという性質のものではなく、現代社会の本質が国際資本家たちによる(植民地)支配であるという事実を暴いた記述であると私は解釈しています。私にとっては思想的に近いところが多く、読みやすい本でした。

関連書評:
逝きし世の面影』江戸時代を知る
アフリカ最後の裸族』伝統農耕社会を破壊・征服する西洋文明
奈良時代の貴族と農民―農村を中心として (1956年)』農耕と文明

カムイ伝講義

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